木… その3
救急車の中で意識を失い、
自分を失ってからよく眠った。
普通なら暇でしょうがないだろう日常がどんどんどんどん過ぎていく。でもそれはつらくない。ただ毎日が過ぎるだけ。
小さな世界で生きるわたしは、病気になった脳をできるだけ使わないようにきっとしていたのだろうか?
2月の節分が終わってそろそろ半ばを過ぎた頃ようやく、なぜか自分だけが取り残されていると気づき呆然としていた。
見ている。食べている。笑ったり怒ったりしている。でも何か違う。他の人たちとわたし、何かがずれてる?
「助けてください!わたしは変な人になってるの?誰か、助けて!!!」
でもそれを話せない。
そばに誰かがいてくれても、変になってしまったわたしを元も戻そうねと言ってくれる人は誰もいなかったのだ。
倒れてから記憶が戻らず、でも2月に入って少しずつつらい気持ちが芽生えた時、今度はわたしが言いたいことをどうやって話したらいいのかがわからない…という初めてのショックに襲われていたのだった。
ベッドの上の小さい世界は、もうわたしには狭すぎる場所になっていた。わたしの脳は何かを待っている。このままではだめと元気な脳が言っている気がした。
何も考えずつらくもなかった小さな世界から今こそ抜け出すチャンスだとわたしはわかっていたのだ。
ベッドから窓を見る。どこからか雪が風になびいて飛んでくる。
同じくらい次々と、わたしの脳は考える。
じゃあどうしたらいい?
そしてもう一人のわたしが問い続けていた…。