木…その2
脳がストップした時の1ヶ月を覚えていない。
意識がなくなっていたわけではなく、家族や医者たちは覚えているのだ。
ただ本人であるわたしは、その1ヶ月後からの記憶がスタート。
そして手も足も、顔も頭もあらゆる右側に関しては動かなくなっていた。
その中でも一番不思議だった事。
それは言葉。
言いたい、話したい、でも名前を言えない、ここはどこなのか、自分は誰なのか、このまま字が書けないのか、今日は何日なのか、冬ってなんなの?朝?空は?雪は?
2017年1月の半ばにわたしは倒れた。
そして病院に運ばれ脳出血を起こしていたことを知る。
と言ってもそれは家族たちで、わたしが目を覚ましたのは何日かたった後。
SCU(脳卒中センター)のベッドから、わたしはを見下ろす家族たちを見た。心配そうに名前を呼ぶ。
この人たちがいつもわたしのそばにいる人たち…。
わたしにはそこまでしかわからず、脳がどんどん壊れていくすべをどうする事も出来なかった。
2月の半ばの記憶は曖昧で、ただ寒い季節を大きな窓から見つめているだけだった。
言葉… 何それ?おかしい自分。頭が悪くなってしまったわたし。看護師さんと言えない、ここがどこかも言えない、トイレも行けない。
ベッドの上だけが自分の小さな世界だった…。
それでもつらいという気持ちでもなく、それはそれでいいんだろうなとただ思っていた。
脳がストップしてからちょうど1ヶ月がたった。